住居のヒント

※住居のヒント  
 先にも触れましたが人が暮らすためには住居と地域が大切な役割を担います。この項においては住居を中心としたヒントを探ってみたいと思います。
 まず、日本の住居は… 特に木造住居は第二次大戦による焼失や地震・津波による消失を経たうえ、昭和の大成長期にはスクラップ&ビルドの時代を迎え、そのため木造住宅の平均寿命は30年と非常に短命なことを言われています。
 近年、国土交通省が一家庭当たりの家計に占める住宅費の負担を低減化することと、住宅の耐用年数を伸ばすことを命題にしましたが目標とする平均寿命は何と僅か35年です!

 以下、2013年1月実施の早稲田大学小松幸夫教授の「建物の平均寿命実態調査」研究を引用させていただきます。
 日本の住宅が短命な原因として法定耐用年数が木造22年、軽量鉄骨3mm以下が19年、3mm以上4mm以下が27年、重量鉄骨4mm以上が34年、鉄筋コンクリートは47年と定められており、建物の更新が早目で本当の寿命では壊していない点も短命化に拍車をかけているそうです。加えて住宅の中古市場の取引数が少なく業界が発達していない状況にあるそうです。
 さて、国内では木造建物が80%を超えており欧米では石造り煉瓦造りが多いので木造は短命とのイメージが構築されてしまったのかも知れません。では、実態は? と言いますと1997年は43.53年、2006年は54.00年、2011年は65.03年と確実に寿命は伸びており今後も増加傾向にあるそうです。今後は丈夫で質実剛健で耐久力100年を超える「終の棲家」が求められる所以であります。国内には法隆寺のような築1,300年の木造建築の事例もあり、大いに寿命を延ばす工夫と努力を続けたいものです。

  住居は三世代を暮らし継ぐ
     住まいは「人」が「主」と書きますが住まう人が主であるべきで「あの家に住む人」ではなく「あの人が住む家」でありたいものですね。また、お仕着せの「住める家」ではなくご自身が積極的に関与した「私が住む家」であってしかるべきです。
 これは欧州の格言ですが「親が家を建て、子供が家具を揃え、孫が食器を整える」とあります。この世代別に負担を分担する論法に基づきますと3世代に渡って精神的経済的なゆとりが持て、住居への愛着も想い出も一際深まりが増します。これからの時代は木造住宅であってもスクラップ&ビルドではなく親・子・孫の3世代を暮らし継ぐことが前提条件となることでしょう。
 また、そう割り切ることにより各世代の住居費が低減され住居予算を文化教養費や旅行費用に転じて充実した暮らしが送られるのでは… と考えます。加えて、長くその地域で暮らすことにより地域との密着性を深めることにもなるのです。
 つまり、既存の住居・今後建築が予定される住居に百年以上の耐久力を持たすとすれば家庭や地方自治体・国の経済にも好影響を与えること必定です。では、耐久力や耐久性などが強い基本性能が高い住居とは… どんな住居なのでしょう? 基本的なポイントと特徴を箇条書きにしてみました。

   第1は「高耐久力」です
     雨露や外敵から命や暮らしを守ってくれる住居が地震や風水害などで倒壊しては「住処」とは言えません。住居を構える前にその地域における地震や風水害、崖崩れや地滑り、液状化現象などを調べましょう。場合によっては住居の構造強化・地盤改良・盛り土などの対策を講じます。地震対策として耐震構造=ガッチリ丈夫に建てる、制振構造=しなりを活かして揺れをいなす、免震構造=住居全体を浮かせて揺れを抑える、などの最新の工法と対策を事前に検討しておくのも大切な住居と生命を確保するための手立てです。
 木造住宅が多い我が国では昔からの課題で耐火性能を高めることは大切なことであります。自宅から火を出さないのは当然、近隣からも火をもらわない対策が重要で、外壁を十分な耐火素材で覆うことや隣家から十分に距離を取って建てるなど、対策をしっかりと講じたいものです。

   第2は「長耐久力」です
     近年では住宅の建材も部材も部品もかなり耐久性能が高まっていますが、特には土台部分の木材の腐朽や害虫による被害が出ないよう建材・部材の吟味を行いたいものです。一方、暮らしの中で住居を長持ちさせるコツとして、基礎・外壁・水周り部分の排水性能と耐水性能を高めることが指摘されます。雨樋の目詰まりの点検、結露の防止、塗装部分の維持管理などの性能を高めることも重要です。
 更には、防蟻対策や傷みを拡大させないための日ごろのメンテナンスを怠らないことも大切です。住居も身体同様に常に点検・整備することが長寿の秘訣なのです。住居を長持ちさせることは家庭における修理や改修などの出費が減り、建替・改修工事も減りそれだけ建築粗大ゴミの発生も抑えられる道理でもあります。

   第3は「健康力」です
     現在は、化学物質使用建材によるシックハウス症候群、ハウスダストによる健康被害などの認識と対策が普及し被害は随分減少していますが、アレルギーや花粉症などを持つ方には更に積極的な対策が望まれます。また最近では先天性光線過敏症や色素性乾皮症のように太陽光線も原因となる病もあります。家族と健康的で明るい暮らしのために天然素材の多用や通風・採光にも配慮したいものです。しかし、省エネや防音性を意識し過ぎて気密性を追求する余り、換気不足や結露など人や住居の健康にも被害を及ぼすことも理解しておきたいものです。

   第4は「省エネ力」です。
     現在話題のSDGs活動や脱炭素活動など暮らしに必要な生活エネルギーを自然界から得ようとする活動が世界的に活発化しています。しかし脱炭素を目指した欧州では空が曇っていた雨が降らなかった、風が吹かなかったなどの理由で発電できない事態が多発し経済活動や市民生活に影響を来しています。自然エネルギーには供給に不安定感が付きまとい、頼れるのは水力・火力・原子力発電などと古い発電所を修理し再使用する傾向にもあります。天然エネルギーには未解決の課題もまだまだ多く、太陽光発電パネルでは耐用年数が20年程度とパネルの劣化の課題、風力発電では重低音や風車によるバードストライクの問題、加えて景観に対する課題があります。
 住居における省エネ効果が最も高いのは住居そのものの断熱なのですが、現実的には住宅の大半に内断熱が採用されています。高い断熱性と住まいへの悪影響を更に軽減するためには、徹底した外断熱(建物の表面にヘアークラックが入らず、建物そのものの長寿化にも効果があるとされる)や通気工法を採用し、ペアガラス窓やソーラシステムによる発電なども併せて計画し、エネルギー効率が高い住宅を目指すのがポイントでしょう。加えて、冷蔵庫・エアコン・洗濯機など、電化製品の省エネ化を設計段階から配慮しておきたいものです。
 更に、直近ではソーラパネルを売電目的ではなく日常使いにしながら災害時電源として、また電気自動車も災害時電源として確保することを勧められています。水・電気・ガスなど普通に供給されているエネルギーなどが災害・事故などで供給されなくなった場合の代替え手段は是非確保されてしかるべきであります。備えあれば憂いなしですね。

   第5は「環境共生型」です。
     住居を壊すと言うことは、建築廃材が大量に出ることに繋がります。だから住居を長持ちさせることと、これから建築する住宅には建築粗大ゴミを減らす努力が求められます。特に、化学建材は土に還元されないことから、地球に負担をかけない土に還るやさしい木材の建材を使う配慮が求められます。
 また一方では、雨水を溜めて草花の水やりに利用し、生ゴミを堆肥にするなど、長期にわたる環境への配慮も求められています。北欧では、地球にやさしいデンマークのエコビレッジが開村し、最先端技術を駆使した環境に配慮した暮らしを追求して大きく話題になったようです。特に脱炭素社会の動きが大きくなると粗大ゴミ化と焼却による炭酸ガス排出は社会問題になりかねません。
 近年は高齢と少子化により放置される空き家が急増し全国で約849万戸にもなるそうです。このような住居は相続を拒否される例が多く行政代執行費用も馬鹿になりません。長く暮らせる住居、丈夫な住居の建設は廃棄住居を減らす意味からも今後の社会的な大きな課題でもあります。

   第6は「老後対応」です。
     バリアフリーが社会的に認知されるようになり、現在ではかなりのレベルで安全性と使い易さから普及しています。しかし、ごく最近ではバリアフリーが逆に身体機能を低下させるとの説も出始めています。この件については後ほど「老後のヒント」の項で説明したいと思いますが、人間の本能と身体機能を鍛えるのが良いとする予防策の分野にまで活動が広がっているようです。
 さて、長年住み続けますと家族構成の変化にも配慮する必要性が生じます。例えば、子供が独立して部屋が余って掃除が大変とか、逆に実家に戻り年老いた親と暮らしたいが古くて狭い、などの問題が発生します。基本性能が高く構造が丈夫な住宅であれば、間仕切りを変更して大部屋にするとか、部屋の建て増しや2階の増築をするなど、柔軟な対応が可能になると思います。
 高齢化対応と家族構成の変化への対応は、建築の計画段階からライフプランと連結して、綿密に考えておくことが肝要だと考えます。基本的に<親.子.孫の三世代を「終の棲家」で暮らす>を目指し、新築・建替・リフォーム(増改築)等の計画を実行いただければ、悔いが残らない住処づくりが具体化するものと思います。
 昔の民家は二百年以上も耐久力があったそうです。その住処を中心にゆったりと暮らし、家族皆で仲良く暮らしを楽しむ家風が引き継がれていくと思えば大変に素敵な人生ではないでしょうか。



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