暮らしの読み物

部会や倶楽部の会員の方々のご協力により寄稿されました。
論文あり、旅あり、食あり、涙あり…と、示唆とウイットに富んだ内容をお愉しみください。


地下足袋日記   1   2   3   4   イギリス編
「遺伝子の命ずるままに 住吉高灯篭建立の奨め」   1  (PDF形式)
味読「やさしさを生きる…」   1   2   3   4   5
ロハスライフ   1
あかりと遊ぶ   1   2   3
アイビー文化を楽しむ   1   2   3   4   5
やきもの小話   1   2   3   4   5   6
35日間の熟年夫婦の旅日記   1-1   1-2   2   3   4   5   6


ピレネー越え、モンサンミッシェル→サンマロー→パリ→バーゼルへ戻る

「サン・マロ」

  明日、パリへ出て市街地で一泊した後、スイスのバーゼルへ戻る計画だったが、折角ブルターニュ地方へ足を踏み入れたのだから、もう一つの名所と言われる「サン・マロ」へ足を延すことにした。都合よく「サン・マロ」へはここモン・サン・ミシェルの駐車場から出発するバスがあるのがわかり、思いがけない訪問先が増えたことになる。
  大西洋岸を北西へ約二時間ばかり、ガタガタの道をバスでゆられ、素朴な舟小屋や網が干してあったりの小さな漁村をいくつか通過し、ようやく町らしいところにたどり着いた。どこで下車してよいのかわからないまま、ドライバーさんのところへ聞きに行こうと立ち上がったら、同じ車内に居合わせたドイツ人夫妻も少し不安気の様子にお互いに顔が会って、どちらともなく下車することにした。
サン・マロのヨットハーバー
  大きな港町で、港には大型船も停泊し、ヨットハーバーも整然として、青い空と青い海、そしてヨットの白い帆が我々を迎えてくれているようだ。
  海に突き出た城塞の固まりのが目にとまる。入口と思われる城門あたり多くの観光客でにぎわっている。ギラギラ輝く太陽の下を歩くのは少々抵抗を感じたが、あまりにも高くて堅牢な城塞に目をとられ近づいてしまった。この城壁に取り囲まれた中が、十二世紀〜十八世紀にかけて造られたサン・マロの旧市街になっていた。
城壁が目立つ旧市街
サン・マロ
城壁で囲まれた旧市街の
建造物群
城壁の外にある駐車場と
ヨットハーバー
旧市街の中にあるホテル
サン・マロの旧市街にある
唯一の教会堂のステンドグラス
城のまぎわは干潟になり
遠くまで歩ける
  城、教会、役場、学校、民家、そして小さな広場が数カ所あり、みやげ屋も石畳の両脇にびっしり立ち並び、迷子になっても不思議でないくらいだ。それに反して城壁の規模の大きさは、今まで見たこともないほどの歴史的建造物である。集団で歩きまわれるほど幅広い城壁の上は、要塞の目的以外何に使われたのだろう。今日では、旧市街を見下ろす好都合な散策道になっている。ここサン・マロの海も干満の差が大きく、丁度干き潮になったところで、今まで海の中に浮かんでいた小島「グランベ島」が眼前に姿を見せた。このチャンスをのがすまいと急いで城壁を下り、裸足になって近くまで湿った砂地を歩く。昔の防波堤の跡なのか、海の中にさし込められた丸木の古い杭がずらりと林立している様は絵になるような風景であった。
  サン・マロの人達は、この地が先の大戦で壊滅的な状態であったものを崩れ落ちた建造物の破片を一つ一つ組み合わせて復元させたというから、本当に町を愛した民族だなと感心する。ポーランドやチェコの旧市街でもこのような歴史的建造物を根気よく復元させていることを思えば、日本で戦後、焼け野原と化した木造の家屋では、何一つ後世に伝えるような建造物は残らないに等しい。一部残ったものがあったとしても、きれいさっぱり壊してしまうのが日本なのだとちょっとさびしい思いになる。
海中にある「グランベ島」
干き潮になったばかりの岩肌
干潮の様子が刻々と
みられるサン・マロの浜
砂浜にさし込まれた丸木の古い杭
  ブルターニュ地方にちょっと足を踏み入れただけで、明日はパリ経由でスイスのバーゼルに戻ることになる。最後の一泊の宿は、残り少なくなったフランスフランでやり抜こうと駅近くのレストランの二階、トイレ、シャワーは共同のペンションにする。ここでも早朝出発の為、前夜鍵を借りて、レストランのカウンター上に返してくれればよいと、マスターが快く受け入れてくれた。七時三十五分サン・マロ発で再びレンネに戻り、ここからはパリ・モンパルナス駅までTGVで一気にパリへ。二時間で着いてしまう。


「パリ」

59階のモンパルナスタワー
リュクサンブール公園内
リュクサンブール宮殿
公園のマロニエの林は
秋色を残していた
公園内のグリーン・フィールドと花壇
  朝十時半、三年振りのパリ入りだ。駅前59階のモンパルナスタワーのノッポビルのビル風を受け、寒さが身にしみる。近くのカフェで朝食をとりながら、最終コース、パリ北部にあるドイツやスイス方面行きの列車の発着所オスト駅十四時四十分発に乗車する為、対策を練ることにした。約6kmの道をリュック姿で歩くのは負担かなと思ったが、リュクサンブール公園まで来ると身体も暖かくなり、歩きぬこうという気力が湧いてくる。やや紅葉を過ぎた公園内は丁度昼食時だったので、宮殿前広場の花壇のまわりにあるベンチには多くの人達が思い思いのランチタイムをとっているようだった。なにしろ国際都市パリ市街の目抜き通りサン・ミシェル大通りを歩きながら秋を楽しもうという欲張り計画だから、目先がいそがしい。ソルボンヌ大学、カルチェラタンの店々、セーヌ河に挟まれたシテ島から見るノートルダム寺院やルーブル美術館界隈、レアル地区のモダンな建物群・・・。実に懐かしい思いで目をやりながら歩き続けた。途中で懐具合がさびしくなったので、私設両替所でフランを求める。サン・ドニ通りを北上し、オスト駅近くになるにつれて衣料品問屋が軒並みに連なり、黒人の労働者が目立つ。パリのファッションがこの問屋街から世界に広がるのかと想像しながら素通りする。
  オスト駅に着いたら腹ペコ。うまい具合に駅のコンコースで食品バサーが開かれていたので、サンドイッチと飲物、それに友人宅へのおみやげに干し肉やサラミを買い、待合室のベンチで腹ごしらえをする。子供や学生ではあるまいに、旅の風采とは言え大人の二人が食べている様はちょっと同国の人に不快を与えたかなとも思ったが、これからバーゼルへ帰る車内での五時間を考えると、恰好なんかつけていられない。しっかり腹の虫をおさえることにした。
  オスト駅を離れたのは一時間遅れ。何かの理由で延着したのだろうが、フランス語とドイツ語でのアナウンスがあっていたので、他の乗客も騒いでいる様子もなかった。一ヶ月の長旅が無事に終わったという喜びと安堵感、そして軽い疲労感がでたのか、主人はウツラウツラ。私は相変わらず車窓に顔をくっつけて流れゆく風景に目を凝らす。フランス北部を東方へ走る列車は、急行とは名ばかりでゆっくり走っているように思えた。通過する駅前の様子や、貨物輸送になる大きなパッケージや飲料水のポリタンクなどが山積みされているのも手に取るようにわかる。特に飲料水ポリタンクの多さには驚いた。飲料水を買うことがヨーロッパでは当り前の生活なので、どこの集荷所にも大型の水ポリ容器を見ることが出来るのだろう。
フランスの国家的な
偉人の墓廟、パンティオン
ソルボンヌ大学構内の
リシュリュー礼拝堂
シテ島内の
ノートルダム寺院
サントシャベル寺と裁判所 セーヌ河とポン・ヌフ サント・ニコラスタワー
シャトル広場 サン・ドニ門 サン・ロレント教会
  夜九時過ぎバーゼル駅のフランス国境側へ到着。ここもパスポートを見せるだけでスイス領へ入る。すぐに友人宅に迎えのTELをしようと、旅に出る前にあずかっていたTELカードを使うがいっこうに通じない。何回もトライして困っていると、後ろに待っていた中年のサラリーマン風の人が気付いてくれて、自分のカードを使いなさいとポケットから出してくれ、おかげでやっと友人宅への連絡がとれた。本当に有難い助け船に涙が出るほどうれしく、こんな親切がスムーズに出来るスイス人の優しさが身にしみた。これから我々も困った時に、人として当たり前にすぐに手を差し延べられるよう意識を持ち続けたいと思った。

  我々が一ヶ月に及ぶぶらり旅が出来るのもスイスのバーゼルに住む友人夫妻が居住しているからこそ、安心して出掛けられるのだと心から感謝している。いつも旅から帰り着いたら、その友人に「予定通り、いつも戻って来れるネ」と不思議がられる。幸いにして二人旅で大きな事件、事故に遭遇したことが今までにないのがめずらしいようだ。
  何でも見てやろうという気持ちから、まだ見ぬ国々への旅をしている我々だが、行く先々で心ゆくまで時間はたっぷりとれるのに期限付きのユーレルパスを使い出すと、ついつい欲が出てしまい、たくさんの場所を次々と尋ねたいと思ってしまう。やっぱり根っからの貧乏性からは解放されそうにない。主人の「パレオマニア」に引きずられて遺跡の前に立ち、ぼんやり目をやりながら考えることは、「いったい誰が作ったのか、そしてここでどんな暮らしをしていたのだろうか」と、あれこれ思いめぐらしてみる。そして遺物を見ては古代人も現代人も考え出すことは同じだなと妙に親近感を覚えたりで、旅することで得るものは一杯あり、これからも体力と財力(これはちょっと覚束無いが)が続く限り「旅する」事は「学校へ行く」事だと置きかえて、これからも歩き続けたいと思う。

おわり

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