論文あり、旅あり、食あり、涙あり…と、示唆とウイットに富んだ内容をお愉しみください。 |
地下足袋日記 1 2 3 4 イギリス編 | |
「遺伝子の命ずるままに 住吉高灯篭建立の奨め」 1 (PDF形式) | |
味読「やさしさを生きる…」 1 2 3 4 5 | |
ロハスライフ 1 | |
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アイビー文化を楽しむ 1 2 3 4 5 | |
やきもの小話 1 2 3 4 5 6 | |
35日間の熟年夫婦の旅日記 1-1 1-2 2 3 4 5 6 |
いよいよ大都市マドリッドへ向う。ある一種の覚悟と緊張感もあって、少しでも太陽が高い内に着きたいと思って正午にアリカンテを発つ。荒涼として赤茶けた台地が遠々と連なる風景の中、静かにすりぬける急行列車Talgoの三時間乗車。鈍行ばかりに慣れ親しんでいる気分とはまた一味違う思いだ。遠くにかすんでみえる巨大なかたまり。列車が近づくに従って林立したビル群が迫ってきて否が応でも気持が高ぶってくる。午後三時前、巨大なプエルタ・デ・アトーチャ駅到着。ドーム型のステンドグラス張りの大屋根、室内は花木が植えられ植物園かと勘違いしそうな立派な駅舎である。感動の余り振り返り振り返りながめての都会入りとなった。
先ずはホテル探し。駅に近くて、安価、安全な宿泊の条件にほぼ合ったところがすぐみつかった。二日間だけの滞在予定で、出来るだけ多くの場所を尋ねたいと思うが、この大都会ではどこをアタックしようかと迷う。月並に観光本のおすすめコースを歩くのが無難と決め、早々にリュックをホテルに残し身軽くスタート。気温も20℃。少々足早やに動いても汗一つかかない。プラド通りをプラド美術館を右に見てシベーレス広場まで一直線。広場の中央には、二頭のライオンに引かれた太陽の神シベーレスの噴水が噴き出している。首都の中心地にふさわしく歴史的なモニュメントや官公庁舎が建ち並び、中でもスペイン銀行、中央郵便局、アルカラ門・・・。どこをとってみても各々の時代にふさわしい様式と重厚さ、荘厳さで、ただただ感激するばかり。マドリッド一の大通りグラン・ビアの両側に建ち並ぶ巨大建造物を一つ一つ眺めながら、今日(こんにち)までしっかり遺って使われている不思議さに、石の文化と木の文化の違いをまざまざとみせつけられる。 |
アルカラ通りにびっしり並ぶ建造物(マドリッド) |
マドリッドの紋章になっている熊の像 プエルタ・デル・ソル(太陽の門)にあるマヨール広場 |
四方を4階建ての建物に囲まれた石畳が美しい落ち着いた広場である |
プエルタ・デル・ソル(太陽の門)は都市のゼロ点。ここから放射状に十本の通路が延びて町づくりがされているところ。この点を踏まないとマドリッドを尋ねたことにはならないというから、スリやひったくりに注意!!を肝に命じてバッグは胸元に抱きしめ、主人にぴったりついて行動する。その内に緊張感もうすれ、干し肉やソーセージが天井からぶらさげられている店内に入ってみたり、アンティクの店を覗き込んだりする余裕さえ出てきた。旧市街地は歩きに限る。実に収穫の多い見学になることは身を持って体験済みだからだ。 二日目は、夜半から降り出した雨がまだ続いていたが、前日の歩きで町の広さは見当がついている。雨具一式を装っての出発。土地の人は少々の雨ではあまり傘も使わず足早に歩くだけの人が多い。アトーチャ通りを一路、王宮をめざす。マヨール広場を抜けてアルムデーナ大聖堂、そして1736年〜1764年までかかって造られた王宮へ着く。まるでフランスのベルサイユ宮殿を思わせる数多い部屋、豪華な家具、調度品、シャンデリア、壁の装飾…。贅を尽くして作られたものばかり。特に目をひかれたものは、ストラスバリが作ったバイオリンやチェロが何点も蒐集されているのには驚かされた。 |
アルムデーナ大聖堂 |
王宮 手前はアルメニア広場 |
王宮内部 |
雨も止み、王宮を出て王宮劇場やオペラ座の外観だけを横目にして、近くで遅い昼食をとる為地下レストランに入る。壁面はポスターでうめつくされ、古びたグランドピアノもある。多分芸術家達のたまり場になっているところだろう。雨具を脱ぎ、ひと息つくことにする。パンと燻製のサーモン、サラダ、コーヒーでお腹も満たされたところで、プラド美術館の裏手に広がるレティーロ公園へ行く。ここは王家から市に譲渡されて、今は市民の憩いの場所となっている。整然と区割された花壇にはおびただしい数の花々が植えられ、特にバラ園は見事な開花である。噴水のある大池には水鳥が遊び、深い森林には古い石畳がつらぬき、時には松の香りがただよう。 120ヘクタールの広さを持つ公園での森林浴がマドリッドの町なかで出来るとは思いもしなかった。 安上りの三度の食事もすっかり板についてきた。夕食はポテトコロッケ、いわしの空揚げ、ハム、フランスパンと飲物の持ち込みでホテルの部屋でとる。まるで子供時代のママゴト遊びをしているようで楽しいものだ。 マドリッドは物騒なところだと言い聞かされていたが、接触したホテルの職員、レストランやカフェで出会った人々、道をたずねた土地の人々、実に親切で陽気。しかも言葉の不自由な我々に対してゆっくりと対応してくれる寛容さを持ち合わせた人々にめぐりあえ、良い印象を持つことができた。 マドリッドの北西約100キロ、カスティーリア地方のセゴビアへ向う。二階建の列車で二時間、車内はセゴビア観光の人だけしか乗っていないのかあまり混雑していない。恐らくマドリッドからは自家用車でドライブする距離なのだろう。見渡す限りの草原には、草を食む羊や牛の群れ、耕された畑の連なり、大自然が人間とうまく共生している豊かさが感じとれる。 高原の頂上にあるセゴビア。日本で言う山城を思わせる土地柄。城壁に囲まれた石造りの町並。圧巻はローマ時代の巨大遺跡、アソゲホ広場の上にある水道橋だ。全長728メートル、高さ29メートル、美しいアーチ形の橋脚の石積みには心底脱帽だった。気品に満ちあふれたゴシックのカテドラル、そして「白雪姫」物語に出て来るお城のモデルと言われるアルカサル。数々の塔の容姿にはうっとりさせられるほど美しい。その塔上からの眺めは360°展開。セゴビア一円グリーン地帯の果てには何があるのだろうとイベリア大陸の大きさが感じとれる一瞬でもあった。 |
ローマ時代の巨大遺跡 水道橋、アソゲホ広場に居る人間が小さくみえる(セゴビア) |
旧市街には、土産物屋が立ち並ぶ。陶器の飾り皿や壷が目立つ |
カテドラルの塔より セゴビア一円の草原を望む |
華麗な全姿をみたい為に丘を下ってサン・アンドレス門をくぐり抜け、遠ざかること30分。弱くなった太陽の下、やわらかい空気を通してみるアルカサルも見事なものだ。見知らぬ土地、クラモレス川の川辺で清い水の流れに目をやり、朝調達してきたバナナ・オレンジ・スモモを食べながらの語らいも幸せを実感する機会となった。 |
アルカサル(お城)への道 |
華麗な姿のアルカサル |
アルカサルの塔より カテドラル全姿を望む |
旅先での料理を楽しむことには無頓着な私達も、時にはホテルでの食事をとらざるを得ないこともあるが、ウエイターが遠まきに気遣ってくれるのは良いが、堅苦しさを感じ食べた気がしない。第一、メニュー選びにとまどい値段も高いときている。なるべく避けたいのだが時には土地の名物を口にするのも話しの種かと思い奮発することもある。 翌朝ホテルを出てセゴビア駅までのバス停留所へ行ってはじめて時刻がわかるという気紛れ行動をすることはたびたび。それでも一歩一歩確実に旅程をこなしているのだからと納得し、二時間に一本しかない列車待ちを駅前のスタンドで朝食をとる。やっとオープンした小さな店で飲料水、パン、ジャム、チーズ、紅茶パックなど購入しておく。 マドリッドへ戻ったその足で引き続きトレド行きに乗り換える。この時節、学生の旅行シーズンではないので乗客も少ない。マドリッドから南へ70キロ、日帰りの観光バスツアーもたくさん出ている。三方をタホ川に囲まれた小じんまりとした町なので大勢を収容するようなホテルもなさそうで、日帰り旅行で丁度いい観光地になっているようだ。どの国からもツアー旅行者は年配組が目立つ。子育ても終り、夫婦で旅を楽しむ風潮は日本も同じ。長い間社会に尽くしてきた褒美として当然与えられてよい時間だと思う。 さて、トレド駅に着くや、驚きの第一歩。小じんまりしているが構内は、木彫の壁、高い天井から吊り下げられたいくつものシャンデリア、アーチ形のステンドグラス。モスクにでも入ってきたような錯覚をしてしまうほど立派なところだ。町の中心、ソコドベール広場近くでレストランの階上にあるミニホテルをとる。古い木造建築で照明はほの暗く、階段の手摺、床、天井、壁、扉も黒びかりがして、長きにわたって使い込んでいるという感じで、この町に来てふさわしい場所を見つけたと喜ぶ。 イスラム文化が色濃く残る町トレドは、六世紀頃は西ゴート王国の首都として栄えたといわれる。車一台がやっと通れるくらいの狭い石畳の道路と、その両側にはぎっしりと古い堅牢な建物が並び、まるで迷路に入り込んでしまったようなところ。方向感覚が良くないと地図通りには目的地を探せない。狭い道に反してカテドラルやアルカサルの建物が大き過ぎて、見上げてばかりの目線では首が疲れてしまう。中世そのままの美観を保っている町全体を眺めるには、タホ川を渡って対岸まで足を伸ばさないと画家エル・グレコが描いたトレドの風景にめぐりあえないことがわかった。 |
トレドの町で1番目立つ アルカサル |
トレド繁栄のシンボル カテドラル |
14世紀建造の サント・トメ教会 重厚な石壁に沿って迷路のような細い道を歩いていくとそこが教会だったり・・ |
タホ川をはさんで旧市街から郊外を眺める |
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